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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)2646号 判決 1955年6月09日

控訴人 日本土木工事株式会社

被控訴人 飯沢金作

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金百十一万九千五百七十円及び内金三十六万七千七十円に対する昭和二十七年七月一日から、内金七十五万円に対する昭和二十八年十二月二十七日から各完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて五十分し、その四十九を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

この判決は被控訴人勝訴の部分に限り、被控訴人において金三十万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は請求棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、認否、援用は、控訴代理人において「金額二万五千五百円、満期昭和二十七年六月十四日、支払地及び振出地ともに東京都杉並区、支払場所株式会社富士銀行荻窪支店、振出日昭和二十七年五月三十日、振出人控訴人、受取人被控訴人なる約束手形一通については、従前の主張を変え、これは控訴人が被控訴人から昭和二十七年五月三十日借り受けた金三十万円に対する同日から一箇月間、利率月八分五厘の割合による利息の前払のために振り出されたものであるから、右手形金の請求は、年一割の利率による一箇月分の利息である金二千五百円の支払を求める範囲に限り許さるべきものであると訂正する。控訴人は被控訴人から借り受けた元金に対する弁済のほか、被控訴人に対し別紙計算書<省略>支払金額欄記載のとおりの金員を支払つたのであるが、仮りに右金員が借入金の利息と認められるとすれば、右金員のうち同表制限超過金額欄記載の金員が旧利息制限法所定の制限を超過する利息であつて、被控訴人が法律上の原因なくして受けた利益であるから、控訴人はこれが返還請求権を有するものである。よつて本訴において右超過額合計金八十七万千三百二十円と被控訴人の本訴請求金額と対当額で相殺する。当時控訴人被控訴人ともに、旧利息制限法の利息を年一割に制限した規定のあることを知らなかつたから、民法第七百五条の適用はない。しからば、控訴人の右返還請求権は被控訴人の元金三十六万七千七十円(本件(一)の手形の残金及び(三)の手形の手形金の合計)に対する昭和二十七年七月一日から昭和三十年二月末日までの年六分の利息金四万六千八百二円、元金七十五万円(本件(四)(五)の手形の手形金)に対する昭和二十八年十二月二十七日から昭和三十年二月末日まで年六分の利息金五万二千五百円及び元金合計(前記元金に本件(二)の手形の手形金中金二千五百円を加える。)金百十一万九千五百七十円の内金七十七万二千十八円に充当されるから、結局被控訴人の請求は残元金三十四万七千五百五十二円及びこれに対する昭和三十年三月一日から完済まで年六分の遅延損害金の支払を求める範囲に制限すべきである。」と述べ、被控訴人において「右主張事実を争う。」と述べたほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する

<立証省略>

理由

被控訴人の主張事実は、すべて控訴人の認めるところである。

よつて以下控訴人の主張について判断する。

控訴人は本件(一)、(三)、(四)、(五)の手形について手形金支払の義務がないと主張するが、当裁判所は右主張は理由がないと認めるものであつて、その理由については、原審認定に供した資料に、成立に争いない乙第一号証の一ないし五、第二号証の一ないし六、当審証人大塚起世子の証言によつて真正に成立したと認められる乙第十三号証、右証人及び当審証人亀井麒郎の各証言を綜合すれば、控訴人は被控訴人に対し、原判決末尾の計算書の支払金額欄記載の金員のうち、本判決別紙計算書の支払金額欄記載の(一)ないし(四〇)の番号を符した金員を利息として支払い、これを控訴会社の経費勘定で処理していることが認められるから、原審認定が正当であるとの心証を深めると附加するほか、原判決の理由(原判決六枚目表十一行から七枚目裏五行まで)は首肯し得るからこれを引用する。

次に、本件(二)の手形は、控訴人が昭和二十七年五月三十日被控訴人から借り受けた金三十万円に対する同日以降一箇月間の月八分五厘の利率による利息の前払のために振り出されたものである、との主張について判断するに、成立に争いない乙第四号証の四、前顕乙第十三号証、原審証人亀井麒郎、当審証人大塚起世子の各証言を綜合すれば、右事実を認めることができる。右認定に反する原審証人飯沢志津の証言は措信しない。ところで右利息は、旧利息制限法所定の制限を超過していること明らかであるから、同法の制限内である年一割の割合による一箇月間の利息金二千五百円の範囲において控訴人は本件(二)の手形について手形金支払義務を負担しているというべきである。そして右手形金に対する昭和二十七年七月一日以降の利息については、原判決においてその請求を理由がないものとして排斥し、被控訴人において不服の申立をしないから、当審においてその当否について判断しない。

更に、

仮りに被控訴人に支払つた別紙計算書支払金額欄記載の金員が利息として支払われたものとしても、そのうち同表制限超過金額欄記載の金員は旧利息制限法所定の制限を超過しており、控訴人には右制限超過の金員を支払う義務がないのであるから、被控訴人は法律上の原因なくして利益を受けたものであつて、控訴人はこれが返還請求権を有するものであると主張するけれども、

債務者が任意に旧利息制限法所定の制限を超過する利息を債権者に支払つた場合においては、民法第七百八条にいわゆる不法の原因のため給付をなしたものであり、その性質上非債弁済に属する不当利得の一種に属する不法原因給付による不当利得について民法第七百八条に於て、特に規定を設けたのは、苟くも不法原因の為めの給付である以上同条の規定に依らしめる法意であり、同法第七百五条を適用すべきものではないから、控訴人はその返還を請求することができない。また仮りに控訴人被控訴人とも旧利息制限法の規定を知らずに同法所定の制限を超過する利息を受授したとしても、給付が不法原因に基く以上、当事者がその不法であることを知ると否とにかかわらず、民法第七百八条の規定を免れることはないから、右結果に変りはない。

しからば被控訴人の請求中、本件(一)の手形金残金十一万七千七十円、(二)の手形金のうち金二千五百円、(三)、(四)及び(五)の各手形金以上合計金百十一万九千五百七十円、(一)の手形残金十一万七千七十円及び(三)の手形金合計金三十六万七千七十円に対する各満期の後である昭和二十七年七月一日から完済まで手形法所定の年六分の利息、(四)及び(五)の手形金合計金七十五万円に対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかである昭和二十八年十二月二十七日から完済まで商法所定の年六分の遅延損害金の支払を求める部分はその理由があるが、その余の請求は理由がない。

よつて原判決の控訴人敗訴部分中右と符合しない部分は相当でないから、原判決を変更し、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第九十二条、第百九十六条第一項に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 牛山要 岡崎隆 渡辺一雄)

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